朝永恵
「盛夏喪失」
電波塔入道雲の中に立つ
赤信号コルクメットに死に羽虫
白桃の澱を皿から啜りをり
蝉の声老父の皺に影落ちる
夏の夜にエアコンの音布団に独り
「桃を剥いた日」
私、フルーツナイフを持っていて、暦をめくるゴミの日はまだ
浴槽で桃の皮を剥くときのゴム手袋はまだ温かい
切り分けてブルーシートに滴った汁を集めて口に含める
器から零れたあなたを抱きとめる桃の仁には毒性がある
新しい日の始まりを背に受けて桃の腐肉を淀川に撒く
「遊泳」
夕暮れへ転がってゆく放課後を金魚の入った壺と過ごした
眩しさを遮った手に付いている瞳が僕を見下ろしていた
パンくずを放る老父を突き抜ける鳩の轍が黒ずみになる
鉄橋に雨の匂いが染みてまばたき沸き立つ怒りのような雷
今朝顔を合わせた彼は中3で、臍の緒がまだ繋がっている
朝焼けをプールの底から仰ぎ見る肉体的な快感と青