5月の月詠
朝永恵
「真っ青」
濡れているアスファルトから立つ匂い 這いつくばって血の味がする
Bloom into you ぼくたちは使い尽くした花火みたいに
白昼のロードサイドを歩きゆく腕を振ったら脚が出るから
目を閉じる・ステップを踏む・息をする 河原の石を飛び跳ねるよう
真っ青の夜明けを齧る溶けた夜のベタつく指の節を舐め取る
心臓が早鐘を打つ藍色の外縁に立ち霞む森ビル
峠には鹿の死骸が横たわり朝の光をその身に映す
セックスの隠喩としての花束をウテナで始めて知ったあの日は
外よりも暗い部屋から窓をみるカーテンの外 5月遠雷
長袖を半袖が簒奪した皐月 冷えた春を蹴散らした夏
「箱」月ノ美兎に寄せて
箱の中 折り畳まれた世界から月の裏面へ軽やかに跳ぶ
配信のこんがらがった残像を目で追いかける白昼の夢
ヴァーチュアルの夢を見ている(目を瞑る)月の裏から透かすあなたは
月⇆世界 枠から飛び出たロケットのほどけた熱が結ぶ航路を
月の輪をスイングバイで振り切って世界へ帰る 君はこの中