短歌・詩
朝永恵 「盛夏喪失」 電波塔入道雲の中に立つ 赤信号コルクメットに死に羽虫 白桃の澱を皿から啜りをり 蝉の声老父の皺に影落ちる 夏の夜にエアコンの音布団に独り 「桃を剥いた日」 私、フルーツナイフを持っていて、暦をめくるゴミの日はまだ 浴槽で桃の皮…
「大学生」 朝永恵 彦星を置き去りにして早馬は第四宇宙速度で駆ける 牛めしにプロレタリアが映りこむ滑走路から飛行機が飛ぶ テレビから万歳三唱 冷蔵庫からスパゲッティをひと束掴む 飛び出した サークル棟の隙間からピザを抱えて走る学生 肌をさす風が穏…
6月の月詠 朝永恵 ひとひとり入る隙間がない蕎麦屋 急いで急いで急いで生きる 青年のデスクに向かう6月の首に汗疹の予兆が出ていて触る ◇ 「魚」 浜辺には行けませんから青色を代わりに塗って地図を作って 丘陵に薄桃色の巣を作るそういう鳥を見たことがあ…
5月の月詠 朝永恵 「真っ青」 濡れているアスファルトから立つ匂い 這いつくばって血の味がする Bloom into you ぼくたちは使い尽くした花火みたいに 白昼のロードサイドを歩きゆく腕を振ったら脚が出るから 目を閉じる・ステップを踏む・息をする 河原の石…
朝永恵 「Circuit」 カーブミラー 自分と目が合う数瞬に白目の余白が光るおやすみ ローギアに入れたままでも走り切るエアコンから出る生ぬるい風 アクセルをゆるやかに踏むその足は先日猫のゲロを踏んでる 車窓から春が逆巻くさまを見る、桜が舞っている強風…
「オレンジピールをひとりで食べる」 7時半オレンジピール入りのチョコ/湿った部屋で2分割する 面映い かみのけをほめられたからビニール傘を花柄に開く 全焼の報道を見て焼きめしを食べる机の赤い中華屋 先鋭な手触りのある陽光が壁に刺さって黄ばみとな…
1月の月詠・短歌17首 朝永恵 「流体の砂」 コメダにて小バエ横切るおぐらあんパーテーションに阻まれている スプーンですくった最後の一口に逆さに光る歪んだ私 知らぬ間に食いしばっていた臼歯 エナメル質が削れて染みる シロサギとマガモの足が突き刺さる…
Hotline/Window/Venus 朝永恵 ももの香でべとべとになるトーストをそばで見ていた小さな花瓶 食卓は七日に渡って囲まれた 熟れたバナナのヘタをもぎった 冷たさが背を伝う汗、擦りむいたフードコートのサーティーワンで 盛夏 サツキの首が冷えている引き算の…
夏のもちもの 朝永恵 陽の光濡れた庭垣石造り肘当てた葉に言い訳は無し 浴びる風 部屋着のままでコンビニへクラフトBOSSに冷えて濡れた粒 厨にはご飯どうしよ何もない買い出しだるいご飯どうしよ… 夏 それは最悪の季節𝒔𝒖𝒑𝒆𝒓 𝒉𝒐𝒕 𝒔𝒖𝒎𝒎𝒆𝒓 𝒗𝒊𝒃𝒆𝒔 暴食や バーガ…