朝永恵
「Circuit」
カーブミラー 自分と目が合う数瞬に白目の余白が光るおやすみ
ローギアに入れたままでも走り切るエアコンから出る生ぬるい風
アクセルをゆるやかに踏むその足は先日猫のゲロを踏んでる
車窓から春が逆巻くさまを見る、桜が舞っている強風で
Circuit けたぐるように走っても周回遅れで4月の終わり
「氷床を知る」
朝なぞる眉の形を型にはめスーツを肩の型に張り込む
手に余るクリームを腕に塗る指の指先の先で余るクリーム
GUで身体と服が交じり合い厚い息吹と薄い胸板
船旅の地平線から眺める陽、無印のレジはいつも混んでる
属性を持たないままに生まれ出た無印の詰め替えボトル(無貌の)
シートから背中が離れる音がする さよならを言う次また会える
つま先で星を摘んだおじさんが「今年で不惑だから」と笑う
口を折る16gのシロップは昏い暮らしに蕩けて消えた
夏に霜 乱反射するカップから氷床を知るコーヒーを飲む
いつまでも白紙のままでいるノートその枯れた野の上に立つこと
詠草をA4ノートに走り書き、なにが悔しいなにが裸足で
ざらざらと鉄橋を打つ雨音が白線を引く梅雨の始まり
「Flavor」YACA IN DA HOUSE-Favorに寄せて
味気ないフレーバーを味気ないままに味わう全部忘れないから
雨曇る窓に身体を起こしたら湿気た床をひたりと歩く
なめらかな(rrr)受話器の背をなぞる(rrr)汚れたボタン(rrr)(IFIF)
焦燥に封をした日の朝の陽はガラス細工のように懐かし
淡々と逆剥ぎの皮を引き出しにしまう忘れぬように手前に