消尽の日記

中身も外見もまぁ覇気がない

4月の月詠「Circuit」「氷床を知る」「Flavor」短歌22首

 

朝永恵

 

「Circuit」

 

カーブミラー 自分と目が合う数瞬に白目の余白が光るおやすみ

 

ローギアに入れたままでも走り切るエアコンから出る生ぬるい風

 

アクセルをゆるやかに踏むその足は先日猫のゲロを踏んでる

 

車窓から春が逆巻くさまを見る、桜が舞っている強風で

 

Circuit けたぐるように走っても周回遅れで4月の終わり

 

 

「氷床を知る」

 

朝なぞる眉の形を型にはめスーツを肩の型に張り込む

 

手に余るクリームを腕に塗る指の指先の先で余るクリーム

 

GUで身体と服が交じり合い厚い息吹と薄い胸板

 

船旅の地平線から眺める陽、無印のレジはいつも混んでる

 

属性を持たないままに生まれ出た無印の詰め替えボトル(無貌の)

 

シートから背中が離れる音がする さよならを言う次また会える

 

つま先で星を摘んだおじさんが「今年で不惑だから」と笑う

 

口を折る16gのシロップは昏い暮らしに蕩けて消えた

 

夏に霜 乱反射するカップから氷床を知るコーヒーを飲む

 

いつまでも白紙のままでいるノートその枯れた野の上に立つこと

 

詠草をA4ノートに走り書き、なにが悔しいなにが裸足で

 

ざらざらと鉄橋を打つ雨音が白線を引く梅雨の始まり

 

 

「Flavor」YACA IN DA HOUSE-Favorに寄せて

 

味気ないフレーバーを味気ないままに味わう全部忘れないから

 

雨曇る窓に身体を起こしたら湿気た床をひたりと歩く

 

なめらかな(rrr)受話器の背をなぞる(rrr)汚れたボタン(rrr)(IFIF)

 

焦燥に封をした日の朝の陽はガラス細工のように懐かし

 

淡々と逆剥ぎの皮を引き出しにしまう忘れぬように手前に